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子どもがいない夫婦のための生前対策【パート2:遺言書だけではカバーできない「もしも」に備える】

前回の記事【パート1】では、お子さんがいないご夫婦にとって、遺言書がいかに重要であるかをお伝えしました。遺言書は、亡くなった後の財産を「誰に、どう遺すか」というあなたの「想い」を叶えるための大切な手段です。

しかし、人生には「もしも」の事態が他にも考えられます。 「もし自分や配偶者が認知症になったら、財産はどうなるの?」 「自分たちが亡くなった後、誰がお葬式や様々な手続きをしてくれるの?」

今回の記事では、このような「生きている間の不安」と「亡くなった後の事務手続き」に備えるための**「任意後見制度」「死後事務委任契約」**について、法的側面から詳しく解説します。

1.判断能力の低下に備える「任意後見制度」とは?

私たちが年齢を重ねる中で、認知症などでご自身の判断能力が徐々に低下していく可能性は誰にでもあります。「自分が自分でなくなってしまったら、銀行口座が凍結されてしまうの?」「医療や介護の契約、誰がしてくれるの?」といった不安は、お子さんのいないご夫婦にとって特に切実な問題かもしれません。

このような「もしも」の時に活用できるのが、成年後見制度です。成年後見制度には、大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。

制度内容申立て時期本人の判断能力
法定後見家庭裁判所が後見人を選任判断能力が低下した後すでに低下している
任意後見自分で将来の後見人を選び、契約しておく判断能力があるうちまだ元気なうちに契約

法定後見は「もう本人が判断できない」場合の制度 → 家庭裁判所が後見人を選ぶため、希望する人に頼めないこともあります。

任意後見は「元気なうちに自分で決めておく」制度 → 自分の信頼できる人に後見人を頼んでおけます。

任意後見制度の法的根拠と仕組み

任意後見制度は、民法および任意後見契約に関する法律に基づいて設けられた制度です。この制度は、ご自身の判断能力が十分なうちに、将来の判断能力の低下に備えて、「誰に(任意後見人)」「どのようなことについて(任意後見事務)」、**「どこまで(代理権の範囲)」**お願いするかを、あらかじめ契約(任意後見契約)で決めておくものです。

契約の締結: 任意後見契約は、公正証書で作成することが法律で義務付けられています。これは、契約内容が明確であり、後に争いが生じないようにするためです。

任意後見人の選任: 任意後見人には、ご自身の信頼できる人(例:配偶者、親族、友人、または司法書士などの専門家)を選ぶことができます。

契約の効力発生: 実際に判断能力が低下し、任意後見人のサポートが必要になった際に、家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人が選任されることで契約の効力が発生します。任意後見監督人は、任意後見人が適切に職務を行っているかを監督する役割を担います。

お子さんがいないご夫婦にとっての「任意後見」のメリット

ご自身の意思の尊重: 判断能力があるうちに、ご自身の希望に基づいて後見人やサポート内容を自由に決めることができます。

財産の保護と管理: 預貯金の管理、不動産の売買・賃貸契約、公共料金の支払いなど、財産に関する様々な事務を後見人が代行できます。

生活・療養看護の支援: 医療契約の締結、介護施設への入所契約、日常の買い物や支払いなど、生活や療養に関する事務も任せられます。

配偶者の負担軽減: 配偶者の一方が病気や事故で判断能力を失った際に、もう一方がスムーズに財産管理や医療・介護の手続きを進めることが可能になります。

家庭裁判所の監督: 任意後見監督人によるチェックがあるため、後見人が不適切な行為をしないよう監視されるため安心です。

親族がいない場合も安心: 夫婦共に判断能力が低下した場合や、頼れる親族がいない場合でも、信頼できる第三者(専門家など)に後見人を依頼することができます。

任意後見とあわせて考えたい「見守り契約」「財産管理契約」

任意後見契約だけでは、契約後すぐに支援を開始することはできません。実際に任意後見の効力が発生するのは、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した後です。

そこで、以下の契約をあわせて検討するのが一般的です。

見守り契約: 定期的に連絡を取ったり訪問したりして、本人の生活状況や判断能力の変化を確認する契約です。認知症などの兆候が見られたとき、すぐに任意後見への切替えをスムーズに行うための橋渡しとなります。

財産管理契約: まだ判断能力がある段階でも、希望に応じて通帳や支払いの管理、不動産の管理などを代行してもらえる契約です。例えば「通院費や施設費の支払いが心配」「遠方に住んでいて自分で管理するのが難しい」という場合に有効ですし、任意後見への移行期間のサポートとしても機能します。

2.亡くなった後の事務手続きに備える「死後事務委任契約」とは?

「自分が亡くなった後、誰がお葬式の手続きをしてくれるの?」「年金や公共料金の解約手続きは?」「SNSの整理も心配…」

お子さんがいらっしゃらないご夫婦の場合、万が一の時に残されたパートナーへの負担を最小限にしたい、あるいは夫婦ともに亡くなった場合に、誰も身寄りがない状態になる不安を感じることもあるでしょう。このような亡くなった後の事務手続きに備えるのが**「死後事務委任契約」**です。

死後事務委任契約の法的根拠と仕組み

死後事務委任契約は、民法の「委任契約」を根拠とするものです。生前のうちに、ご自身の亡くなった後の事務手続き(死後事務)を、特定の相手(受任者)に依頼する契約です。

契約内容の自由度: どのような事務を依頼するかは、契約によって自由に定めることができます。ただし、公序良俗に反しない限りです。

受任者の選定: 信頼できる人であれば、配偶者、親族、友人、または司法書士などの専門家を選ぶことができます。

効力発生時期: 委任者の死亡をもって効力が発生します。

死後事務委任契約で依頼できる主な内容

葬儀・埋葬に関する事務: 葬儀社との契約、葬儀形式の決定、費用の支払い、納骨・散骨に関する手配など。

行政機関等への届出: 死亡届の提出、年金受給停止手続き、健康保険・介護保険の資格喪失届など。

医療費・入院費の清算: 病院への支払い、医療費助成の申請など。

電気・ガス・水道・電話・インターネット等の解約手続き: 各種公共料金の精算と解約。

賃貸物件の解約・明け渡し: 賃貸契約の解除、家財道具の処分、敷金の精算など。

遺品の整理・処分: 遺品の仕分け、不用品の処分、デジタル遺産の整理(SNSアカウント削除など)。※遺言との関係によりできないこともあります。

ペットの世話: 新しい飼い主への引き渡しや、一時的な預かりに関する手配。

死後事務委任契約のメリット

トラブルの予防: 複数の親族がいる場合、誰がどの事務を行うかで揉めることを防げます。

残されたパートナーの負担軽減: 悲しみの中での煩雑な事務手続きから解放し、心身の負担を軽減できます。

ご自身の希望の実現: 葬儀の形式や遺品の整理方法など、ご自身のこだわりや希望を確実に実現できます。

無縁になる不安の解消: 頼れる身寄りがいない場合でも、信頼できる専門家などに依頼することで、亡くなった後の不安を解消できます。

3.司法書士に相談するメリット

任意後見制度や死後事務委任契約は、どちらもご自身の意思を尊重し、将来の不安を解消するための重要な手段です。しかし、それぞれの契約内容の検討や、公正証書作成の準備、適切な受任者の選定など、専門的な知識と手続きが必要となる場面が多くあります。

私たち司法書士は、これらの制度に関する専門知識を持ち、お子さんがいないご夫婦の状況やご希望を丁寧に伺いながら、最適な契約内容の提案から公正証書作成のサポート、さらには信頼できる専門家として受任者となることも可能です。

法的なアドバイス: 制度の仕組みや法的な有効性について、分かりやすくご説明します。

オーダーメイドの契約作成: あなたのライフスタイルやご希望に合わせた、最適な契約内容を共に考え、作成をサポートします。

手続きの代行: 公正証書作成のための公証人との調整や、必要書類の収集・準備などを全てサポートします。

専門家としての受任: 信頼できる専門家として、任意後見人や死後事務受任者となることも可能です。これにより、身寄りのない方や親族に負担をかけたくない方も安心です。

まとめ|「遺言」「任意後見」「死後事務」は、安心のための「三位一体」

「遺言」は亡くなった後のための対策、 「任意後見」は生きている間に判断能力が低下した時のための対策、 「死後事務」は亡くなった後の事務手続きのための対策。

お子さんがいないご夫婦が、この先の人生を心穏やかに、そして安心して過ごすためには、この**「三位一体」**の備えを整えることが非常に重要です。

「まだ早いかな」「うちの場合はどうなるの?」 どんなきっかけでもかまいません。将来の心配を減らし、今を安心して暮らすために、まずは一歩踏み出してみませんか?

ご自身の未来、そして大切なパートナーの未来のために、ぜひ一度私たちにご相談ください。

初回相談は無料です。平日夜間や土日祝の対応もご相談いただけます。

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